ガスレビューコラム

大陽日酸 安定同位体・金属3Dプリンター・MOCVDなど先端分野で事業拡大目指す

年間売上高200億円を30年度までに2~3倍に

大陽日酸(永田研二社長)は、自社開発および社外との連携により開発した最新の製品・技術を事業化し、新規需要獲得を目指す〝イノベーション事業〟の展開を強化している。

具体的には安定同位体や金属3Dプリンター、化合物半導体製造装置(MOCVD)といった自社開発製品で、ユーザーの課題解決に繋がる製品・技術の開発にめどが付いたことで、提案を加速させ、これら製品群の年間売上規模を30年度にかけて2~3倍に伸ばしていきたい考えだ。

ここでは、それら製品群の詳細を紹介する。

安定同位体

安定同位体(SI=Stable Isotopes)は、原子番号が同じで質量数が異なる原子〝同位体〟のなかで、放射性ではなく安定して天然に存在するもの。
その性質から、医薬品や半導体の原料、大学・研究機関での研究用材料などとして利用されている。

安定同位体の生産は、エアセパレートガスの主要製造法である深冷空気分離技術(沸点差を利用して大気成分から酸素、窒素、アルゴンなどを分離する方法)を応用している。
同社では世界で初めて、酸素ガスの深冷分離により酸素同位体濃縮プラントの建設に成功した。

安定同位体『Water-18O』

PETによるがん診断の普及に伴い04年に、安定同位体『Water-18O』の生産を開始。
その後PETによるがん診断が世界各国で行われるようになったことに加え、アルツハイマー病の診断や、最近では心疾患の診断も可能になるなど応用が広がっている。

同社はWater-18Oの需要増に合わせ生産量を拡大してきており、現在は1号プラント(千葉県市原市、生産能力100kg/年)、2号プラント(千葉県袖ケ浦市、同200kg/年)、3号プラント(山口県周南市、300kg/年)という三つの生産拠点がある。
販売先は欧州と北米をメインに43ヶ国以上、世界市場シェアは23年度時点で約40%と推定される。

安定同位体『Water-18O』 生産プラント

20年で市場規模が飛躍的に拡大

市場からは「深冷空気分離による製造法は大量生産が可能かつ高濃縮度な製品を供給できる点が評価されている」(同社)としている。

市場規模は04年当初の数10億円規模から、22年には約400億円規模に成長し、30年には約500億円規模に拡大する見込み。

安定同位体は、酸素以外にも炭素や窒素などにも存在し、将来的に様々な応用例が研究されている。
炭素の安定同位体では、量子コンピューターの制御やMRI用診断プローブ(生体内分子の可視化で臓器や血管などを診断)、重水素や窒素の安定同位体はクリーンエネルギー(核融合炉への供給)などへの拡大が期待されている。
同社は様々な安定動態分離技術の開発を行っており、将来需要に備えている。

安定同位体・細胞成長因子関連サイト

金属3Dプリンター

金属3Dプリンターは、金属粉末やワイヤーを溶かして層を積重し、中空や格子など複雑形状の立体物を造形する装置で、その手法はAdditive Manufacturing(AM )と呼ばれる。

金属3Dプリンターによる造形物

大陽日酸は、長年培ってきた溶接や熱処理など金属加工を強みとして、2017年から金属AM分野に参入。
造形時に必要な窒素やアルゴンといった雰囲気ガスを用いる点から、本事業は既存事業との親和性が高く、産業ガスの新たな需要創出にも繋がっている。

現在、主な納入先は宇宙・防衛・半導体分野で、装置は海外メーカーの最先端製品を、国内独占販売契約により展開。
さらに、材料供給・品質保証・ガス機器工事なども含めたトータルソリューション型サービスを提供し、国内トップのAM技術インテグレーターを目指している。

金属3Dプリンター関連サイト

MOCVD装置

MOCVD(MO=Metal Organic Chemical Vapor Deposition、有機金属気相成長)装置は、化合物半導体製造前工程で用いる製造装置のこと。

化合物半導体とは、2種類以上の元素が化合してできる半導体であり、シリコン半導体に比べ高速、大容量、高電圧・高電流条件下に強いといった特長を持っている。

代表的なものにSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)、Ga2O3(酸化ガリウム)などがある。
同半導体は、家庭用の照明や赤緑青の信号灯用LED、Blu-ray再生用のレーザダイオード、携帯電話基地局に搭載される信号増幅用パワーアンプユニットなどに使われている。
同社は長年培ってきたガスハンドリング技術をもとに、設計から開発・製造までワンストップで装置を提供している。

今後の事業拡大に向けては、日本国内に限らず、成長が見込めるとする欧米にも積極的に進出する構えだ。
具体的にはEV(電気自動車)関連のパワーデバイスをはじめ、AIの成長で需要の高まるデータセンター、AR(拡張現実)グラスなどでの活用が期待されるMicro-LED、宇宙向け太陽電池など、今後ますますMOCVD装置の需要増加が見込まれる分野での普及を目指す。

MOCVD関連サイト

TNSC製 最新鋭 MOCVD HVM用 UR26K-CCD

特殊材料

BRUTE Hydrazine

エレクトロニクス分野では、重水素ガス(D2)、重水素化アンモニア(ND3)、無水ヒドラジン(N2H4)、過酸化水素(H2O2などの先端特殊材料を揃える。
とりわけ、上記の4種類は、付加価値の高い〝ニッチベスト先端材料〟と位置づけ、半導体のデバイスメーカーや製造装置メーカーにおける開発段階から量産に至るまで、安定的に供給することで事業成長を図る。

特殊材料関連サイト

細胞成長因子

バイオテクノロジー分野では、最先端医療向けに細胞成長因子事業を展開している。
細胞成長因子とは、細胞の分化や増殖を促進するために添加されるタンパク質のこと。
再生医療など創薬分野で需要が拡大している。

細胞成長因子は少量多品種であり、調製が難しいものもあり、製造には高度な技術が必要となりコストもかかることが課題となっていた。
加えて、動物組織からの直接抽出や遺伝子組換え生物を用いた培養法は、安全性やリスク管理面で課題があるとされる。

大陽日酸では、理化学研究所からライセンスを受け、タンパク質合成に必要な酵や因子を含む細胞抽出液をもとに、試験管内でタンパク質を合成できる技術〝無細胞タンパク質合成〟を製品化。
容易かつ安全に、タンパク質を製造できるプロセスを実現した。
さらに同技術をユーザーに気軽に導入してもらうため、キット化した〝無細胞くん〟も開発しており、同製品を足掛かりに今後の事業拡大に取り組むとする。
25年3月には応用研究開発の推進を目的に、神奈川県横浜市に新たな開発拠点を設置している。

無細胞タンパク質合成/無細胞くんウェブページ

無細胞くん

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