ガスレビューコラム



2025.07.02
世界的な供給力増強と需要低迷で供給量安定のヘリウムだが、調達価格は上昇傾向続く
近年ヘリウムの供給は、2019年以降のタイト化現象から世界的な緩和に向かい日本への供給量も安定している。国内では一滴たりとも生産されず全量を海外からの輸入に頼っている天然資源ヘリウムは、生産元のプラントトラブルや海運業のひっ迫などにより容易にタイト化しやすい。しかし、2021年からロシアの新プラントが稼働し世界供給量が増加したことに加え、中国をはじめとする世界的なヘリウム需要が落ち込んだことが要因で、一部では玉余りの状況になっている。今後もプラントトラブルや紛争拡大などといった突発的な事象が起こらない限り、安定した供給が続いていくとみられる。
海外の天然ガス田から分離精製して製造
日本は全量輸入
ヘリウムは無色・無味・無臭、不活性で、空気よりも分子が小さいガスである。沸点は元素のなかで最も低いマイナス268.9℃。これらの特性を活かして様々な工業プロセスで使用されている産業ガスである。
主な用途は、ガスヘリウムで半導体(プロセスチャンバーの熱置換)や自動車、エアコン部品のリークテスト、光ファイバーの焼成用、気球の浮揚ガスとして使用されている。
液体ヘリウムは絶対零度近傍の極低温を利用して、医療分野における超電導MRIのマグネットの冷却をはじめ、極低温機器の研究開発等に使用されている。
しかしヘリウムは大気中には約5ppmしか含まれていない。そこで工業用ヘリウムは、大気からの分離抽出ではなく、地下の岩盤層にある天然ガス田に含まれる約0.5%の成分を分離・精製することで製造されている。
巨大な天然ガス生産プロジェクトに付設する形でヘリウム生産が行われているため、大規模な天然ガス産出プロジェクトのある場所に限られてしまう。
輸出可能なヘリウム生産国は米国、カタール、アルジェリア、ロシアの限られた天然ガスプラントのみで日本への調達は完全に輸入頼みの状況にある。
輸入価格は安定せず
供給量は安定しているものの、日本への調達価格については、貿易統計のデータを見ると、2025年4月の月間平均輸入価額(輸入量/輸入価格)は2万748円/kgで、1年前の2024年4月の1万8,458円と比べて約2,000円上昇している。一方、7か月前の2024年11月の2万2,942円と比べると、約2,000円下落しており、価格は変動を繰り返している。
この背景には、為替が円安基調にあることに加え、ヘリウムの需要が従来の日欧米から中国、インド、アジアなどに広がり、各地でのヘリウム資源の獲得競争が影響している。
全量を輸入に頼る日本では、天然資源であるヘリウムの国際的な需給環境の影響を受けやすく、調達価格が大きく下がりにくい状況にある。
ヘリウムの輸入状況
